キャデラックは、アメリカンラグジュアリーの象徴として100年以上の歴史を誇るブランドです。 その名は、かつて「世界標準」と呼ばれた精密な製造技術や、アメリカ大統領専用車の供給など、格式と革新性を兼ね備えた存在として知られてきました。
2020年代に入り、自動車業界は電動化の大波に直面。キャデラックも例外ではなく、ブランドの未来を担うべくEVシフトを加速させています。 その第一弾として登場したのがリリック(LYRIQ)。そして2025年には、未来志向のコンセプトモデルエレヴェイティド・ヴェロシティ(Elevated Velocity)が発表され、ブランドの方向性を鮮明にしました。
本記事では、キャデラックEVの現行モデルとコンセプトモデルの詳細、ブランド背景、技術的特徴、競合比較、そして所有・運用面でのポイントを徹底的に解説します。
キャデラックEVの魅力とブランド価値
ブランドの歴史とEVシフトの背景
キャデラックは1902年に創業し、早くも1908年には部品の互換性を保証する精密製造で「デュワー賞」を受賞。 戦後はエルドラドやフリートウッドといった大型ラグジュアリーカーでアメリカンドリームの象徴となりました。
しかし21世紀に入り、欧州や日本の高級車ブランドとの競争が激化。環境規制や消費者の価値観の変化に対応するため、GMはキャデラックを電動化の先鋒と位置づけ、2030年までに全モデルEV化を目指す方針を発表しました。
リリック(LYRIQ)の概要
- 全長4,995mm × 全幅1,985mm × 全高1,640mm、ホイールベース3,085mm
- 最高出力384kW(約523PS)、最大トルク610Nm
- バッテリー容量95.7kWh、航続距離約510km(WLTC)
- RWDベースのAWD仕様、日本仕様はCHAdeMO急速充電対応
- 価格:税込1,100万円(2025年5月以降デリバリー開始)
デザイン
フロントはシールド型のブラックパネルグリルにLEDシグネチャーライトを組み合わせ、従来のキャデラックらしさを保ちながらもEVらしい未来感を演出。 サイドはクーペSUV的な流麗なルーフライン、リアは一文字型LEDテールでワイド感を強調しています。
インテリア

室内は33インチのパノラマディスプレイが目を引きます。 インフォテインメントとメーターを一体化し、直感的な操作性と高解像度表示を実現。 素材は本革、ウッド、アルミニウムを組み合わせ、アメリカンラグジュアリーらしい重厚感とモダンさを両立しています。
エレヴェイティド・ヴェロシティ(コンセプト)
2025年8月に発表されたコンセプトモデルで、オンロードとオフロードの両立を目指すハイパフォーマンスEVクロスオーバー。 特徴的なガルウイングドア、複数の自律走行モード、AR HUDナビゲーションなど、未来のキャデラック像を示しています。
- エレヴェイティドモード: 自律走行時にペダルとステアリングを格納し、ラウンジのような空間に変化
- ヴェロシティモード: スポーツ走行向けの照明・情報表示に切り替え
- テラモード: 車高を上げてオフロード性能を発揮
- サンドビジョン: 砂嵐下でも視界を確保するAR表示
技術的特徴
- GMのUltiumプラットフォーム採用:モジュール式バッテリーと高効率モーター
- DC急速充電対応:最大190kW(北米仕様)、日本仕様はCHAdeMOで最大90kW
- 先進運転支援:Super Cruise(ハンズフリー高速道路運転支援)
- OTAアップデートによる機能追加・改善
競合比較
モデル | 航続距離 | 最高出力 | 価格帯 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
キャデラック リリック | 約510km | 384kW | 約1,100万円 | アメリカンラグジュアリーと最新EV技術の融合 |
BMW iX xDrive50 | 約650km | 385kW | 約1,300万円 | 欧州的洗練と航続性能 |
メルセデスEQS SUV | 約600km | 400kW | 約1,500万円 | 静粛性と快適性の極致 |
テスラ モデルX | 約560km | 500kW超 | 約1,300万円 | 加速性能と充電ネットワーク |
改善の余地と実用面のポイント
充電インフラと航続距離
リリックはCHAdeMO急速充電に対応していますが、日本国内の高出力器はまだ限られています。 航続距離は公称510kmですが、高速巡航や冬季では4〜5割減る可能性があります。

対策
- 高出力対応の充電スポットを事前に把握
- 到着前プレコンディショニングで充電効率を向上
- 20〜80%充電を複数回行う運用で時間短縮
価格とオプション構成
ベース価格は1,100万円ですが、オプション追加で総額が大きく膨らむ可能性があります。 リセールバリューを意識した仕様選びが重要です。
サイズと取り回し
全幅1,985mmは都市部の駐車環境では全幅1,985mmは都市部の駐車環境では制約となる場合があります。 特に立体駐車場や機械式パーキングでは入庫不可のケースもあるため、購入前に自宅や職場周辺の駐車環境を確認することが重要です。
ソフトウェアとUI
33インチパノラマディスプレイは圧巻ですが、情報量が多いため初めてのユーザーには操作に慣れるまで時間がかかる場合があります。 また、OTAアップデートによる機能追加は魅力ですが、更新中は一部機能が制限されることもあるため、タイミングの見極めが必要です。
対策
- 納車時にディーラーでUI操作のレクチャーを受ける
- OTAアップデートは長距離移動の予定がない時に実施
- 必要な情報だけを表示するカスタマイズ設定を活用
維持費と総保有コスト
EVはガソリン代が不要でメンテナンス頻度も少ない一方、タイヤやブレーキなどの消耗品は重量級車両ゆえ高額です。 また、車両価格が高いため保険料も相応に高くなります。
試算例(年間)
- 自動車保険:20〜30万円(条件により変動)
- タイヤ交換:20〜40万円(4本、プレミアムブランド)
- 定期点検・消耗品:5〜10万円
- 電気代:自宅充電で月5,000〜8,000円程度(走行距離による)
オーナー事例と声
- 「静粛性と加速の滑らかさは他ブランドにはない魅力。長距離移動が楽しい」
- 「充電計画を立てれば不便はないが、急な遠出は少し不安」
- 「インテリアの質感は素晴らしいが、UIは慣れが必要」
購入戦略
- 試乗ルートの工夫: 高速・市街地・狭路を含めて実際の使用環境を再現
- 充電インフラの確認: 自宅・職場・よく行く場所の急速充電器をマッピング
- オプション選び: リセールに有利なカラーや装備を優先
- 納期と在庫: 希望仕様が長期納期の場合、在庫車の活用も検討
まとめと購入判断
キャデラックEVは、アメリカンラグジュアリーの価値観をEV時代にアップデートした存在です。 リリックは現実的な選択肢として、エレヴェイティド・ヴェロシティは未来の方向性を示す象徴として、それぞれ異なる魅力を持っています。
購入を検討する際は、充電インフラや用途、オプション構成を含めた総保有コストを試算し、自分のライフスタイルに合致するかを見極めることが重要です。 「ブランドの物語」と「最新技術」の両方を所有する喜びは、数字やスペックだけでは測れない価値をもたらします。
コメント