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新型テスラ・ロードスターはなぜ飛べる?吸い付く仕組みと「3つの仕様」の正体

「飛ぶロードスター」を見て、2人で乗れるスポーツカーに飛行機能まで付くと思った人もいるだろう。ところが、Teslaが2026年10月に公開した構成では、予約できる2人乗りと、飛行をうたう1人乗りは別だ。車体を路面へ吸い付けるファンと、気体を噴き出して車体を押す装置も、同じ仕事をしているわけではない。

この記事では、誰と乗れるのか、何を繰り返し使えるのか、予約金を払うと何が決まるのかを、製品ページとTeslaの公式発表投稿、米国予約契約から整理する。派手な動きを見せる映像と、所有して使える車の条件を、一つずつつないでいこう。

角張った白い車体と横一文字の赤いテールライトを斜め後ろから捉えた新型テスラ・ロードスターの公式画像
新型ロードスターの走行シーンとして公開された公式画像。低いルーフと鋭角的なボディは、従来の丸みを帯びた姿とは大きく印象が異なる。Courtesy of Tesla, Inc. 出典:Tesla Gallery

飛ぶのは1人乗りのRocket。2人乗りの予約車とは何が違う?

現行ページは、基礎となるPerformanceに、ThrustやRocketという追加構成を並べている。注目したいのは、噴射器が付く場所と座席数が変わることだ。

現行の米国公式ページで確認できる構成
構成 席数・提供方法 何を加えるのか
Performance 2席・予約受付 アクティブ空力と多モードの吸引機構
Thrust 2席・限定提供の追加構成 後部のコールドガス噴射器による加速
Rocket 1席・招待制 車体周囲の噴射器による前進・上昇・横方向の回転

出典:Tesla Roadster公式ページ。TeslaはPerformanceを道路向け、Thrustをレース向け、Rocketを飛行向けと位置づける。これは同社による用途の説明で、全構成の認証完了を示す表ではない。Rocketには公道使用の承認を受けていない旨の注記がある。さらにページ末尾は、掲載機能・仕様がThrustの追加構成を反映すること、飛行関連の一部説明はRocket限定で地域制限があることを示す。

つまり、映像で目立つ動きを全部まとめて、予約するPerformanceの標準機能だと受け取ると読み違える。2人で出かけられる車を想像しているのか、1人で特殊な動きを試す機体に関心があるのかで、見るべき構成そのものが変わる。

ファンの本領は、走り出す前からタイヤを路面へ押し付けること

吸引ファンの仕事は、車体の下から空気を排出し、下面のシール機構と組み合わせて路面方向への力を生むこと。TeslaはRocket向けの説明として、停止していても逆さに保持できるほどの吸引力を説明している。ここで重要なのは、車速に頼る通常の空力装置と違い、低速や停止中にも力を生めるという考え方だ。Teslaによる吸引機構の説明

大きなモーターを積んでも、タイヤが滑れば、その力を十分に路面へ伝えられない。車体を押し付ける力を増やすと、タイヤが受け持てる力の上限を高める方向に働く。ロードスターの吸引機構は、馬力を増やす話と同時に「その力をどう使い切るか」を扱っている。これは機構の働きから読み取れる意味であり、一般道のどんな路面でも公称性能が出るという保証ではない。

実は、逆さに保持して走るファンカーの実演には先例がある。英国McMurtryは2025年4月、Spéirlingを専用の回転台で上下反転させ、ファンの力で保持したまま動かす実演を公表した。同社が挙げる利点も、停止中からダウンフォースを作れる点だ。Teslaだけが突然、未知の物理現象を持ち込んだと考えるより、既に実演された原理を、どんな車の構成へ組み込もうとしているのかを見ると理解しやすい。McMurtryの公式実演報告

この仕組みを道路で使うには、路面と車体下の隙間が変わっても吸引を保てることが大事になる。段差や水で力が変わるなら、運転する人が使える場所も変わるからだ。ファンの消費電力、騒音、路面別の挙動は、今回参照したTesla資料では定量的に確認できない。動画で吸い付く一場面が見えても、普段の道で同じ性能を保てるかまでは分からない。

コールドガス噴射は、ファンとは別の方法で車体を押す

新型テスラ・ロードスターのリア下部に並ぶ円形ノズルとディフューザーの公式画像
後部の円形ノズルと下側の空力造形。車体を噴射で押す仕組みと、路面へ吸い付ける仕組みは役割が違う。個々の開口の内部構造まで画像だけで判断することはできない。Courtesy of Tesla, Inc. 出典:Tesla Gallery

Thrustが加えるのは後部のコールドガス噴射器。Rocketでは噴射器が車体の周囲にも置かれ、上向きの動きや姿勢の制御を支えるという。路面へ押し付ける吸引機構と、噴射の反力で車体を動かす機構を分けて見ると、なぜ構成ごとにできる動きが違うのかが分かる。TeslaのThrust/Rocketの説明

「ロケット」と聞くと炎を噴き出すエンジンを思い浮かべるが、コールドガス方式は燃焼を使わず、気体をノズルから放出して推力を作る方式だ。NASAの技術資料もこの原理を説明している。ただし、これは方式一般の説明で、ロードスターのガスの種類、タンク圧力、積載量をNASA資料から特定できるわけではない。NASAのCold Gas技術解説

噴射には、車に積んだ気体を使う。一度の加速と、その後も繰り返し加速できることは別だ。気体の補充が必要な間隔と時間、必要な設備が分からなければ、たとえばコースで何周楽しめるか、出先で補充できるかを見積もれない。Teslaの参照資料では、その条件を確認できていない。

Teslaの公式仕様投稿には、航続300マイル超、Rocketの最高速230mph超という表記もある。距離・速度の単位だけを換算すると、それぞれ約483km超、約370km/h超に相当する。ただし、投稿では航続の認証モードや測定条件を確認できず、日本の認証値や独立実測とは扱えない。精密な加速秒数も投稿にはあるが、0–60の単位と測定条件を十分確認できないため、本稿では0–100km/hの比較表へ置き換えていない。

固定シートに体を合わせられるか。2人乗りの室内

白い2座シートとヨーク形状の操舵装置、中央ディスプレイを備える新型ロードスターの公式画像
公開された2座のコックピット。白とグレーのシート、ヨーク形状の操舵装置、中央ディスプレイを確認できる。1席のRocketと混同したくない部分だ。Courtesy of Tesla, Inc. 出典:Tesla Gallery

公開画像のコックピットは白とグレーを基調に、ヨーク形状の操舵装置と中央画面を組み合わせる。Teslaはステアバイワイヤ、固定のシート位置、手動操作部品を挙げ、マグネシウム・チタン・炭素繊維などの材料も軽量化の説明に使っている。Tesla公式の内装・軽量化の説明

座席位置が固定された構成では、体格に合わせてどう運転姿勢を取るかが重要だ。家族や友人と運転を交代する場合にも、無理のない姿勢を取れる必要がある。ただし、ペダルや操舵装置の調整機構・範囲は参照資料から確認できないため、写真だけでは体に合うかを判断できない。

また、写真に見える2座の室内を、1席と説明されるRocketの完成形と混同しないことも大切だ。ロードスターという名前が同じでも、隣に誰かを乗せて楽しむ方向と、飛行のために構成を変える方向が同居している。

予約金は5万ドルと25万ドル。車両価格が決まったわけではない

米国の公式予約画面では、Performanceは当日5,000ドルに加え10日以内に45,000ドル、Thrustは当日5,000ドルに加え10日以内に245,000ドルという支払い表示だった。合計はそれぞれ5万ドルと25万ドルだ。これは確認時点の米国向け予約支払額で、日本向け条件でも、車両の最終価格でもない。米国公式予約画面

米国予約画面の表示(2026年10月18日確認)
構成 当日 10日以内 合計
Performance $5,000 $45,000 $50,000
Thrust $5,000 $245,000 $250,000

さらに、米国版のRoadster予約契約(US v.20261015)は、車両が開発中であること、価格はまだ確定できないこと、予約が車両の購入や注文を構成しないことを明記する。納車時期だけでなく、実際に納車できるかも保証しないという説明もある。予約画面が存在することと、完成した市販車を注文できることは分けて読む必要がある。

では途中で気が変わったらどうなるか。米国契約の第5項は、Teslaからの案内後に車両構成を完了するまで、Tesla Accountで予約を取り消せ、予約金は全額返金すると定める。返金は原則として元の支払い方法へ戻る。一方、第6項では予約金を分別管理・信託せず利息も付けないとし、予約権の譲渡にはTeslaの事前の書面同意が必要とする。これらは米国の予約段階の条件で、構成確定後の注文契約や日本の条件へは流用できない。米国予約契約・第3〜6項

今の資料から分かること、まだ支出を計算できないこと

現時点で分かるのは、ファンで接地を助け、追加構成では気体の噴射で別の力を加えるという設計と、構成ごとの席数・提供方法だ。電池のサイクル寿命や補充費用、保険・整備を含む年間維持費まで分かった段階ではない。既存のTesla車の保証や充電性能を、この開発中の車へそのまま当てはめることもできない。

二人で乗る目的なら、まずPerformanceの最終装備と乗車姿勢、注文・納車条件が判断材料になる。コースや特殊な動きを目的にするなら、吸引・噴射を連続使用できる範囲と補充の条件が欠かせない。同じRoadsterでも、使い道によって必要な情報は違う。

Tesla公式の発表映像を見るときも、吸引で路面へ保持する場面と、噴射で車体を動かす場面を分けて追ってみたい。飛ぶ姿の一瞬だけで終わらせず、その前後を成立させる仕組みに目を向けると、このロードスターの新しさがよりはっきりする。

情報確認日:2026年10月18日。米国・英国の現行公式ページ、公式投稿、米国予約画面・契約を確認。性能はメーカーによる説明で、筆者による実走行・飛行・充電試験は行っていない。掲載画像はTeslaが提供する無加工の公式画像で、個別の実写・CGの区別を断定していない。

本文・米国予約契約の取消し条件は2026年10月20日改訂。車両の構成と予約画面の金額は10月18日の照合記録に基づく。